詠み人知らず
おろろ~
電撃文庫・11月の感想1
■柴村 仁×也『プシュケの涙』  ★★★★☆
プシュケの涙「こうして言葉にしてみると・・・
すごく陳腐だ。おかしいよね。笑っていいよ」。
「笑わないよ。笑っていいことじゃないだろう?」。
あなたがそう言ってくれたから、私はここにいる――
あなたのそばは、呼吸がしやすい。ここにいれば、私は安らかだった。
だから私は、あなたのために絵を描こう。
夏休み、一人の少女が校舎の四階から飛び降りて自殺した。
彼女はなぜそんなことをしたのか?その謎を探る二人の少年。
一人は、うまくいかないことばかりで鬱々としてる受験生。
もう一人は、何を考えているかよく分からない“変人”。
そんな二人が導き出した真実は・・・。

あー・・・気持ちが沈み気味の時に読むんじゃなかったわ。
これは一言で言うと、切ない。ただひたすらに切ない。胃がキリキリ痛む小説です。
読了後、表紙の“プシュケ”(ギリシャ神話に登場する背に美しい蝶の羽根を持つ女性。
後に「愛を信じる心」を司り、恋人達の成功を祈る神となった。神となる試練において、
人間として初めて冥界の川を渡った事からプシュケという単語は魂の意味を持つようになる。
その為、ギリシャでは魂はしばしば蝶と同一視&象徴化される)を眺めつつ、
あの時あいつは・・・とか、どこで歯車が・・・とか色々考えて中々眠れなかった。
ってか駄文長ぇ!連休の合間に書くとある意味ヤバイな・・・。読まれる方も連休推奨ですw

ある日、突然クラスメイトが飛び降り自殺した。
榎戸川は自殺の真相を探る由良という少年に半ば無理矢理付き合わされる形で、
吉野 彼方が自殺した理由を探ることに。自ら死ぬなんて勿体無い、
死者は重んじられるべき、と言う一方で、誰も居なくなった吉野の家に
土足で上がりこみガサ入れする由良は、榎戸川とは性格的に対極にある“変人”だ。

そんな由良が何故、榎戸川を誘ったのか。本当に自殺の瞬間を目撃したという
理由だけなのか。それならば同じく目撃した行動派の旭でもいいのではないか。
由良の言動は異常なのだ、何もかも。最早「ただ知りたい」という次元を超えている。
とある発破を行い、美術室で榎戸川を待っていた由良には絶対榎戸川が来るという
確信があったように見え、何かを確かめたがっていた。
読み進めるうちに、由良はただの好奇心で真相を探っていないと言う事が分かってくる。
ある種の確信が彼を突き動かしている・・・その確信とは何なのか・・・。
榎戸川と旭がその確信を突きつけられた時、物語の真実が見える。
途中から匂っていた“それ”が、“そう”だと分かった瞬間・・・。
鳥肌。絶句。もうそれしかなかった。何だ?この目の前に広がっている現実は。
どうする?何が出来る?・・・何も出来ない。絶望に胸が苦しくなりました。

吉野の自殺は“自殺”となって、あの日の真実を教えてくれました。
このシーンで主人公である榎戸川(彼の視点で物語が進むしね)の器の小ささが
露呈します。けど、どこかで「最低だコイツ」と言えない自分がいた。
受験に追われ、心に余裕がなくなっている少年像は、我々が通ってきたそれであり、
年相応の等身大の少年と言える。なので、ある意味同情せざるを得ない部分がある。

人によっては、元凶だと思える榎戸川の幼馴染の織恵も相当にいい性格をしている。
真相が分かった瞬間、まず思い浮かんだのか彼女のコレまでの言動だった。
無論、彼女は真相は知らない。自分がした行為によって何が起こったのかを知らない。
でも・・・それでも、もし、もしも彼女がああいう行動をとらなければ、と思うと、
非常にやるせない。過去は変えられないが、流石にこれは残酷すぎる。

真相が分かった途端、物語は急な終幕を迎える。
季節は夏から春になり、自殺未遂を起こした由良は退院し美大に進学、
旭と織恵は別れ、榎戸川と旭は理由不明(うーん・・・)で高校を自主退学する。
榎戸川はその後、想いを寄せていた織恵とは音信不通(アレがきっかけで?)になった。
1つの真実と、多くのトラウマを残して物語は終わりを迎えた・・・かに見えた。

実はこの小説は前・後半に分かれています。前半は吉野自殺の真相について、
そして後半は・・・主人公が榎戸川からある少女に変わり、
その少女が転校してきて、喜怒哀楽様々な体験をして
綺麗な蝶の羽を少しずつ羽ばたかせていく場面が描かれています。
見た目の描写、家にも高校にも居場所がない、由良という“変人”と出会う・・・
ええ、名前こそ出てきませんが、あの少女に間違いはありません。

なかなか名前を出さなかったのは意図的だったんしょうねぇ。
後半の中盤、由良に名前を聞かれた少女は益田 水衣と名乗ります。
「どんな小さなことでもいい」と救いを求める俺にとっては「お?」と思った。
あの少女の話じゃない・・・?じゃあ希望的観測を持って読める・・・?
ははっ・・・まんまと作者の罠にはまりましたよ。分かっていたけどはまりたかった!
それでも現実は残酷で、後半のラストに少女の名前が吉野 彼方と判明するのです。

後半は、前半部だけでは分からなかった吉野という少女について、
そして由良はなぜあそこまで真相に固執したのかが描写されています。
吉野は社会や“人間”を嫌い、“居場所”がない少女だった。
クラスメイトとは疎遠になり、それが軋轢を生み、援交をしているという
いわれなき誤解、中傷を受けるハメになった。故に彼女が唯一安息出来る空間は、
社会と隔絶したネカフェの個室だった。そんな少女が出会った“変人”由良。
彼もまた心に空虚な穴を抱え、“居場所”を求める少年だった。

閉ざしていた心を少しずつ由良に開いていく吉野、彼女に惹かれていく由良。
欠けたピースを求めていた2人が出会い、生まれた“居場所”は素晴らしい世界でした。
これを壊すなど誰にも許される事ではない・・・のだけど、これからどうなるか、
無残にも彼らの世界が壊される事を知っている自分がいる。

彼女達が手を取り合い、抗い、前に強く進んでいくたびに前半部が、
劇薬となって襲ってくる思いだった。前半では全く分からなかった吉野の魅力。
後半ではこれがこれでもかと散りばめられていたので、読むたびに陰鬱な気分にw
でも、あの前半があるからこそ後半の儚さ、素晴らしさ、
及び前半に対する行き場のない怒りが増幅されるんだよなぁ・・・。

由良の「蝶の絵が見たい」という言葉に込められた想いの強さに胸が打たれるのと同時に、
飄々としている“変人”でもやっぱり由良も1人の人間なのだなと思い知らされた。
腸が煮えくり返るくらいの感情であろうの本音を隠して、
“犯人”と相対するときの気持ちはどんなものだっただろうか。

彼の怒りは誰に向けられていたのだろう。“自殺”後の榎戸川達の行動だろうか?
確かにソレはあっただろう。俺ならとても笑顔で会話なんか出来そうにないわ。
でもやっぱり一番怒っていたのは「蝶の絵が見たい」と2人の“居場所”を作ってしまった
自分自身に対してじゃないかと思う。もしも自分があんなことを言わなければ、
彼女は生物準備室に行かなかったかもしれない。そもそも自分と出会わなければ・・・?
取り返しのつかない事だから、余計に自分の行動を呪ったのではないだろうか。

彼が「4階から飛び降りただけで人が死ぬのか」と“実験”と称して
榎戸川を冗談半分で突き落とそうとして、その後自分が飛び降りたシーンあったよな。
あれはやっぱり、吉野が死んだという事実を受け入れがたい気持ちと、
自分に対する“罰”の意識によってああいう行動をとったんじゃなかろうか。

あの時、榎戸川はマジだったんじゃないかと肝を冷やしていたけど、
由良は本当にそれは冗談だったんだと思う。もしあれが“罰”だったのなら、
自分が飛び降りないと意味がないからな。

「プシュケ」とはギリシャ語で「魂、蝶」の意味。
「少年の蝶の羽は片方しかなく、居場所を求めてもがいていた。
しかし魂となった少女の羽により、少年の羽は完成され、
少女の魂は少年を未来へ羽ばたく可能性を導いた・・・」。
『プシュケの涙』というタイトルと表紙からそんな言葉を連想しました。
由良がこれに気付いてたのなら、辛い現実からまだ前に進めるよね?
否。進まないとダメだよね?その羽、魂となった少女もそう願っているはずだ。
君には2枚の素敵な羽があるんだぜ!“未完成の蝶の絵”を継承して、
“完成”させられるのは君しかいないんだぜ!

前後半を通して、実は吉野の自殺描写の「あっけなさ」が一番心に残った。
本当にあっけなかった。拍子抜けと評してもいいかもしれない。
特に後半部を読んで、そう強く思った。あれだけ熱い想いがあったのに、
その想いに辿り着くまで様々な山を越えてきたのに、最期がこれかよ、と。
読者が抱いた気持ち、そして吉野や由良の全てをあざ笑うかのようなあっけなさだった。
「なぜ?」と言う疑問も、“終わり”へ抗うことすらも許さない「あっけなさ」。
ここには作者の努力と現実が必ずしも比例しない、けどその熱い想いは美しく、
何かを動かすことが出来るものだという・・・そんな感じの想いがあったのかなぁ。
美談を否定し、現実から目を反らさせず、でも読了すると大切な何かを
得たような気分にさせる不思議な小説だったと思った。

突きつけられる現実、取り返しのつかない過去。
その中で芽生えた掛け替えのない想い。
いやぁ・・・実に残酷で、愛おしい物語でした。
恐らく続刊はでないでしょう。というか出せないでしょう。

柴村先生。貴女がこんな内容の話も書けることに素直に感動しました。
が!2冊連続でこういう系統は正直キツイので、次は『お稲荷さま』をお願いしますw
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テーマ:ライトノベル - ジャンル:本・雑誌

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