詠み人知らず
のどごし・・・パラダイス!
電撃文庫・7月の感想1
■杉原 智則×3『烙印の紋章 たそがれの星に竜は吠える』  ★★★☆☆
烙印の紋章 たそがれの星に竜は吠えるかつて高度な知能を持った竜が支配し、【魔素(エーテル)】を
利用した文明に支えられた世界。十年の間、戦争を繰り広げてきた
メフィウスとガーベラは王族同士の政略結婚により、
その長い戦いに終止符を打とうとしていた。
幼い頃、戦争により故郷を追われ剣闘士となったオルバは、
瓜二つの容姿をしていることから、婚礼を控えた、
うつけと噂されるメフィウスの皇子とすり替わることになる。
一方、勝気なガーベラの姫・ビリーナは、皇子を篭絡して自国の利益を図ろうと密かに決意。
そんな二人の婚礼の途中、何者かの襲撃があり!?二人の思惑と和平の行方は──?

うおー!すんげー面白かったんですよぅ!?
色々とアレな杉原先生の新作だったから、期待半分で購入したのだが・・・。
今作はいわゆる戦記ファンタジーというやつだな。同じ電撃文庫では
皇子入れ替えの『タザリア王国物語』、先ごろ完結した『空ノ鐘の響く惑星で』があるが
これはそのどちらとも違う。2作品に比べて泥臭く、杉原先生らしい作品だったように思える。
前作の『レギオン』は非常に難解(今内容を説明してと言われても無理なくらい。
今作のあとがきで作者すらも難産だったと言っているし・・・w)で、
今後が不安だったのだが、これは電撃に新しい戦記モノの登場を予感させるものだった。

舞台が「我々の世界の延長線上」であるというのがまた面白い。
舞台となる惑星は人が入植を開始して、数百年経つ。人類が来る前は
竜の世界であり、彼らとの争いの中、人類は次第に“科学”を失っていった。
そんな中、人類は【魔素】と呼ばれる新たなエネルギーを手に入れ、
“科学”の変わりに“魔法”(ゲームの様なものではない)という文明を手に入れた。

“科学”を失う過程が、納得出来る形でちゃんと描かれていた事に感心。
ふーむ、よく考えるとそうだよな。“科学”は永続的なものじゃない。
それを可能とする“餌”が必要だ。石油なり、電気なりね。
有限であったそれら消費しつつ、先の見えない惑星の開拓と戦いに明け暮れたであろう
当時の人類に複雑な思いを馳せてしまった。これは人事ではないのかもしれないしの。
惑星の随所にある人類がやってきた当初の遺跡や、今はただの獣と化した竜・・・。
これらは何かの伏線なのかな。この時代、故郷である地球はどうなっているんだろうか。

メフィウスのうつけ皇子・ギルと顔がそっくりな主人公・オルバは、
ギルの死亡(恐らく生きていると思われる。一度も死んだとはっきりかかれてなかったし。
彼が今後、どこで再登場してくるのか見物だ)によってその運命が大きく転換する事に。
一介の剣闘士(つまりは殺し合いをさせられる奴隷)からいきなり一国の皇子になったのだ。
敵対する隣国・ガーベラとの和平、政略結婚、婚儀での暗殺未遂、そして愛国心を
履き違えた歴戦の勇者による叛乱。次々に起こる難事に、時にうつけ皇子として、
時に才ある指導者として、時に最下層の国民として挑むオルバの姿は八面六臂。
清々しいほど我地を行く人物であった。その思考、貪欲さは我々の心に近く興奮した。
「手に汗握る」とはまさにこの事だ。頁を捲る度に荒々しい情景が次々に浮かんできた。

「国の礎は人」。それを解くビリーナに理解と・・・反感を示すオルバ。
彼女の言う理想論は、あくまで王族や上の身分から見た言い方だったもんな。
奴隷制度のあるメフィウスを下賎だと蔑むビリーナだったが、その礎出身である
オルバから言わせて見れば、現実が見えていないビリーナの言は
王が奴隷を虐げるような勝手な物言いに映ったに違いない。
反目しあう皇子と姫・・・否、民と王族が、お互いに刺激しあい、
どう変わっていくのか。これから来るであろう嵐を前に、読者も昂ぶる思いだ。

そのビリーナだが絵に描いたようなやんちゃ姫っぷりで、
2巻以降描かれるであろうオルバとの結婚生活が楽しみだ。
「皇子を篭絡させ血が流れない戦いで争いに終止符を打つ」と決意する彼女だが、
肝心のその篭絡のさせ方を知らないしな。ツンデレフラグでしょ、これw
その前に皇子自体が入れ替わっちゃってるから、篭絡させても意味ないけど。

しかし彼女は物語に置いて、誰よりも“真っ直ぐ”だ。それは作中に出てくる
9歳の時のエピソードにも現れているが、その“真っ直ぐ”をオルバが
いつ認めるのかも大きなポイントだろう。今のオルバにとってはその実直さは
あまりにも眩しい。剣闘士となり鈍色の仮面を被ったオルバ、
偽の皇子となり肌色の仮面を被ったオルバ・・・。未だ自分を表現できず、
オルバという人格すら見失いかけている彼にとって、“真っ直ぐ”生きる
ビリーナはとても羨ましく、腹立たしい存在であるのは容易に想像出来る。
それが「王族故の驕った思考」以外の理由として、ビリーナへの反発を招くのだろう。
オルバが“仮面”を脱ぎ捨てる事ができるか否かは、ビリーナにかかっていると思う。

一方、(ギルの)義妹のイネーリはオルバが入れ替わったことに気づきそうな予感。
彼女もまた違った意味で、オルバの“仮面”を取る一翼を担う可能性があるね。
へたれのギルに対しては「しっしっ」と言わんばかりの対応だったが、
ギルに扮したオルバに対しては何か言い知れぬものを感じ取っている。
妖艶な見た目に幼さを残す言動・・・年端もいかない無知な姫であるが、
しかしあの年にして、彼女の眼は物事の奥を見通す力には長けているようだ。
俺としては今んとこイネーリの方が好きだなぁ。速攻で側室にするわw

竜神信仰の遊牧民出身、竜の“声”が聞けるホゥ・ランもヒロイン候補かな。
今んとこ彼女が心を開いているのはオルバだけだ。強姦されそうになった所を
救われたとは言え、接しててあまりいい印象を持たれないであろう言動のオルバに
すぐに心を開いたのは、若しかしたらオルバの“声”を聞く力もあるからなのかも。
仮にあるとすれば・・・その“声”はオルバ自身も、聞いた事がないものなのだろうな。

作中の言動を読むに、逆にオルバも彼女に一番心を開いていると言える。
竜の“声”が聞けるというある意味“唯一”のファンタジー要素を持つ彼女は、
物語の鍵を握る気がしてならない。彼女は本当に地球から来た人類の子孫何だろうか。

その他、脇を固めるサブキャラも魅力的な奴が多い。
その中でも何と言っても剣奴隷時代の仲間(と言っていいのか?w)ですなー。
剣奴隷の数人はオルバが偽の皇子になった事を知っています。というか、
オルバが打ち明けたんですが、これは信頼の証・・・否、オルバと同じく
ひたすらに「生きよう」とするその姿に同じものを見たからでしょう。
毎日暖かいベッドで眠り、「勝てば官軍」宜しく強姦、強盗、快楽殺人
何でも来いの乱捕りをする官僚や軍人よりも、「明日は我が身」を信条に
毎日を100%で生きている泥にまみれた人間の方がよっぽど頼りになる。
オルバを始め、彼ら、虐げられてきた者たちが、国を、人を、
変えるというのがこの物語の根底にあるのかもしれない。
物語はまだ序章であるが、既に“変革”の匂いが立ち込めている!

暗殺未遂など一連の事件の首謀者が父であるグール・メフィウスなのは本当だろうか。
うつけには任せられないという想いと、自身の権力を維持したいという想いがあれば、
動機にはなるが、あまりにもあっさりしすぎている。グールは何かを隠し事がある?
ガーベラの反政略結婚派と皇帝が結託していた、または利用したのは明らかだろう。
でもその間に両者を取り持つ何者かがいるのでは?メフィウスの中にも皇帝派、
反皇帝派がいて、いつ均衡が崩れるか分からない。更にはオルバを傀儡とし、
摂政の座に座ろうとしている貴族、ギル(本当はオルバ)の変わり様に
言い知れぬ恐怖とほんの少しの希望を感じている国を憂う政治家等など、
ドロドロしないまま、事が終わるのはあり得なさそうだねぇ?

それに他の国・・・例えばエンデ公国の動きもクサい。
エンデはメフィウスとガーベラに和平を結ばれたら困る。
ガーベラには有事に際し、同盟を反故にされたという大義名分があるので、
メフィウスにも何か理由付けて大義名分を立てようとしているのか。
そうなれば戦争になったら、漁夫の利的に有利な方につける。
それとも共倒れを願って、裏で工作し2国を争わせ疲弊させようとしているのか。

村を焼かれた時に生き別れになった幼馴染のアリス・・・。
杉原先生の作品を読んできた読者はこう思っただろう。「再登場させないでくれ」とw
いやだって・・・あの杉原先生だぜ・・・?『頭蓋骨』とか書いてた人だぜ?
アリスの今は良くて売春婦、悪くて鮪目の肉奴隷。それも極上のシチュエーションでの。
俺にはオルバが激高するシーンが視えるわ・・・白杉原降臨してー!w

とにかく「生きよう」とするオルバは、今までに無い戦記モノの主人公像かも。
生き別れになった母、兄、そして幼馴染。その原因を作った仇である自国の将軍。
国を動かすブタどもの都合で、散々辛酸を舐め、振り回されてきた事への復讐。
叛乱を鎮めたのも、皇子の売れ替えを良しとしたのも全てはこれらを成就する為。
国を護るとかそんな事は一切無い、目的の為に「生きる」。それがオルバの全てだ。
何故なら彼は既に、護るべきものを全て奪われ失ってしまったのだから・・・。
オルバがこれからどう生きる目的を成就させ、後には何か残す事が出来るのか?
新しい護るべきものは見つかるのか?(まぁ見つかるんだろうけどw

“これから”に大変いい予感が持てる作品だ。戦記モノの命とも言える
“世界観”が綿密に練られていて、作中ではそれを分かりやすくして下地に使っている。
かといって丁寧な書き方でも、長ったらしく感じる事はなく、スムーズに嚥下できる。
皆!買ってくれ!もしこれが売れれば『頭蓋骨のホーリーグレイル』の続編がぁ!w

テーマ:ライトノベル - ジャンル:本・雑誌

コメント
この記事へのコメント
コメントを投稿する
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可する
 
トラックバック
この記事のトラックバックURL
この記事へのトラックバック
烙印の紋章―たそがれの星に竜は吠える (電撃文庫 す 3-15)/杉原 智則¥641Amazon.co.jp 【剣闘士から一国の皇子へ──。杉原智則が贈るファンタジー登場!  かつて高度な知能を持った竜が支配し、魔素を利用した文明に支えられた世界。  十年の間、戦争を繰り広...
2008/07/30(水) 08:53:45) | 狭間の広場