詠み人知らず
『サガフロリマスター』予約したで~
電撃文庫・3月の感想1
■三上 延×椎名 優『モーフィアスの教室①』  ★★★☆☆
モーフィアスの教室①ごく普通の高校生・岸杜 直人が通う高校で、
多くのクラスメートたちが見た不思議な夢の“教室”。
その夢の中でバケモノに喰われた者は、二度と目を覚ますことはない――。
悪夢に囚われた友人たちを救うため、
直人は傍若無人な幼馴染み・久世 綾乃と夢の秘密に迫る。
やがて直人は、自分の夢の“教室”にだけ、不思議な扉があることに気付く。
なぜか綾乃は、「その扉を開けてはいけない」と直人に忠告するが・・・。
現実世界を浸食しはじめた 悪夢を直人は止められるのか?そして綾乃の知る真実とは?

――モーフィアス。ギリシア神話における夢をつかさどる神モルフェウス。
睡眠をつかさどる神ヒュプノスの子。人間の夢に入り込む力を持つ。

この微量ホラーテイストこそ、オサナジミニスト・三上 延の真骨頂よ!
口の中から×××とか堪らんわ。俺はこれ読んで昔観たOVAを思い出した。
確か、何かダメな感じになっちゃった看護婦さんの口から×××が出でて、
もの凄いスピードでこっちに迫ってくんの。今でも鮮明に覚えてるわ。

1巻故、直人の周囲や現実の世界と夢の世界の関係性など説明が多くを占めた。
基本的にはそれを綾乃が担当したわけだが、それは綾乃のツンツンと交えて
行われたのでわずらわしさは無かったな。俺は、主人公や文章が独り言みたく
唐突に説明口調になったり、突っ込んだりするシーンが多いと読み疲れてしまう。
やっぱ読む時は主人公にまず最初に移入するので、そういう存在が自分の想いと
乖離した言動ばかりするのは頂けない。また、綾乃の“説明”も綾乃自身の
事情もあって簡単には明かされず、こちらがあーだこーだ推察する時間があった。
そんな感じで進み、ラストにて物語の下地となる全ての事が明かされる。

ここの場面は過去作とは違った流れで良かった。これまでの三上作品の主人公は
否応無く物語に巻き込まれる形が多かったが、今回は自らの意思によって
手に武器を取った。無論、これには「そうしないと物語は始まらない」という
設定みたいなものがあった事が大きいのだが、1巻から前進思考な主人公が拝める。
またこの主人公の意思、決定は同時に・・・終盤、ある事についてどちらかを選択しないと
いけない時がやってくるだろうという予感がする。当人にとっては残酷だが今から楽しみ。

【夢神】とは人の悪夢が作り出した産物のようだ。
夢との世界とは大きな木であり、人間の個々の夢はその木になる実のようなものらしい。
それがいつしか悪夢となり、それが【夢神】に転化する。【夢神】はそれ自体が
「生きている」ので現実の世界への侵食を試みる。そしてやはり「生きている」ので
夢の世界の人間(の魂)を捕食し、“人間”になろうとする。【夢神】の夢の中には
現実と夢とを繋ぐ【あらずの扉】が存在するが、「【夢神】自身には開ける事は出来ず、
開ける事が出来るのはその悪夢を作り出した当人か、ある特別な力を持つ一族」だけ。
本来【夢神】はその悪夢を作り出した者にしか影響を与えることが出来ないが、
まれに多くの人間を巻き込む強力な【夢神】(今回の【ヨミジ】もそう)も存在する。
とまぁ【夢神】はこんな感じの存在らしい。俺ぁ【夢神】の特性を聞いて真っ先に
「どう足掻いても絶望」を彩ってくれた『SIREN2』の闇人や屍人を浮かべたよ。
独自の思考、文化を持ち社会(某EDは衝撃だった)を形成している・・・。
彼らもまた、“あるべき場所”に帰りたがっていたからな。

直人は【あらずの扉】をあけることが出来る一族・・・【扉の民】の末裔だった。
【扉の民】は古来より現実と夢の狭間、【あらずの扉】を管理してきたようだ。
という事は妹である水穂も末裔だよな。1巻を読む限り水穂が自分が【扉の民】の
末裔だとは知らない様子だったが・・・。仮に知らないという前提で考えると、
水穂が綾乃をあんな人呼ばわりしていたのは、本能的に綾乃が人間ではないと
感じ取っていたからだろうか。それとも大好きなお兄ちゃんをとられそうになって、
やきもちを焼いているだけだろうか。直人の“約束”もあって水穂からは
ラスボス臭がする。必ず直人たちの前に立ちはだかる事になるはずだ。

悪夢を見ない特別な存在、【夢神】など夢の世界の構造に詳しい・・・。
綾乃が人間ではないというのは、中盤から何となく分かっていた。
彼女が悪夢を見ないのは「こちら(現実)こそが彼女にとって夢の世界」だからだな?

【夢神】はこちらにやってくる時、最初に口にしたも物を“現実の味”とする。
もともとが悪夢の産物である【夢神】は存在が不安定な為、常に“現実の味”を口にし、
“成長”する必要がある。【夢神】が最初に口にする物・・・それは多くが人間であり、
【ヨミジ】もそうだった。だからこそ【ヨミジ】はこちらにやってきてまずしたことは
人間を食らう事だった。しかし綾乃は【扉の民】として覚醒する前の直人によって
半ば強制的にこちらに連れてこられてしまった。本来ならば綾乃も人を食らわないと
いけないはずだったが、綾乃がこちらへ来て最初に口にしたものは直人から貰った飴だ。
だから彼女は常に飴を・・・しかし、言い換えれば人間を食らう必要が無い訳だ。
・・・あれ?あの飴が発売中止になると綾乃はどうなるんだろう・・・w

飴をやりとりする何気ないシーンにこんな秘密が隠されていたなんてな。
普段そっけなくツンな綾乃が、飴に拘り「美味しいよ」と言う言葉を返していた。
あの「美味しい」にルビを振るなら、それはきっと意味の裏に直人に対する
「ありがとう」に違いない。綾乃にとっては自分が今ここにいられるのは
直人のお陰である、このまま今が続けばいいのにという想いと、
直人や親友達に危機が迫る中、直人には【扉の民】として覚醒して
もらわなくてはならない(=自分の正体を明かさなければならない。
たとえ嫌われても)という2つの味をかみ締めて飴を舐めていた・・・のか。
綾乃は今日までストレートに想いを伝えることが出来ないもどかしさと、
真実を隠す申し訳なさを今日までずっと抱えていたんだな・・・。

全てを知った直人は綾乃と“約束”を交わす。
1つ、自分で武器を手に取り父親を殺した【赤い目】を追う。
1つ、綾乃を【夢神】の“あるべき場所”である流刑地【王国】に戻してやる。

これは直人にとっては自身の“罪”を贖罪し、綾乃にとってもいい事だと思っている。
・・・が、綾乃にとってはその“約束”はどうなんだろう。確かにこの“約束”で
直人に対する彼女のこれまでの“罪”は払拭されたかに見える。
でも【王国】に帰る事が本当に幸せな事なんだろうか。【ヨミジ】と綾乃を比べると、
綾乃は飴、そして何より周りの人間の慈愛によって限りなく“人間”になっている。
そんな彼女には当然人間としてなくてならない(直人への)感情が
芽生え始めているようで・・・。果たして彼女はそれを捨てる事が出来るのか。

三上作品の特徴の1つとして、明日へもがく主人公達を温かく見守る存在が
居る点が挙げられる。その存在は「この世の理では縛りきれない、人知を超える何かが
恐らく周りで起こっているんだろうなぁ」といぶかしみつつも「私の役目はそれを
暴く事ではない。右に左に自分の居場所と進むべき道を模索する若者の為に、
帰るべき場所を作る事だ」と達観している。今回の場合はクゼーおばさんがそうだ。
綾乃が自分の子では無いと、どこからやってきたのかすら分からないと知りつつも、
真の愛情で彼女をここまで育て上げた。綾乃は今後自分が分からなくなる日が必ず来る。
その時に助け舟を出すのが彼女一番の役目になろう。またクゼーおばさんが【夢神】に
狙われる可能性も大いにある、そこらへんも彼女の道を決定付ける要因になりそう。

三上先生はヒロインである幼馴染を甚振るのが好き(?w)なので、
ボコボコにしてきそうで怖い。しかも今回の綾乃は非人間故肉体的なダメージには強い。
そうなると精神的に・・・“人間”になった綾乃だからこそ効く精神的な何かで
嬲りそうだ・・・直人が今とは違う感情で彼女に接しないと彼女は壊れてしまうのでは?
【夢神】は子孫も残す事も可能なようだから、そっちの心配はないようだぞ?直人よw

思えば【夢神】も可哀想な存在なんだよな。人間は生まれる事自体は強制と言えるが、
自分は何の為に生まれてきたのか、何がしたいのか、出来るのかを決める事が出来る。
しかし【夢神】はそうではない。人間の勝手な夢で勝手に生まれ、生まれた理由も無い、
狭い狭い悪夢の中では何も出来ない。選択肢すら無い。心の中は空っぽだ。
だからこそ現世と“人間”を渇望する。だがその意思すら【扉の民】に阻まれてきたのだ。
殺す事が出来ない【夢神】は【扉の民】によって【王国】に堕とされ、
王族(綾乃の一族。王様は父親であるらしい)に従属する形で永劫を
過ごさなければならない。彼らが【扉の民】を憎悪するのも分からなくはないな。
でもまぁ・・・これは人間である俺の視点だ。【ヨミジ】が現世に出てきた時の
描写を思うに、【夢神】にとっては“生”についてここまで深くは考えていないだろう。

【赤い目】の正体が気になるところ。最後にいくつかのヒントをばら撒いていたな。
電話越しに聞こえる踏切の音・・・女性だと思わせるような口調・・・
【ヨミジ】に力を与えた・・・何人か候補は上がるが、まだ断定は出来ん。

【ヨミジ】を創り出した奴が「私の悪夢はこの現実だ。夢の世界こそ現実だ!」と言い、
【あらずの扉】を開けてしまったが、このセリフは針となりて妙に心に残った。
若しかしたらある人にとっては、【夢神】の方が良いと感じる事もあるかもなぁ。
そんな想いが今後の【夢神】が顕現してしまう事件に繋がるのだろうか。

人間の夢の種類は人間の数だけある。即ちそれはほぼ無限を意味する。
ならば悪夢も無限であろう。さてさて、そんな悪夢ネタだけでどれだけ魅せられるか。
前作はラストがイマイチ盛り上がりに欠けただけに、今回は期待していますぞ。
今はただ、現実と夢の差、これが2人の別れの物語にならないことを祈るばかりだ。
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テーマ:ライトノベル - ジャンル:本・雑誌

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