詠み人知らず
ぼくはくまたいよう!
電撃文庫・3月の感想1
■藤原 祐×kaya8『煉獄姫②』   ★★★★☆
煉獄姫②塔に囚われた煉獄の姫君――アルトは、自らの住まいたる牢獄でかつての友と邂逅した。
王宮に囲われた少年騎士――フォグは、自らの出生と向き合いまだ見ぬ妹の存在を知った。
【グラフの数珠】を巡って起きた事件より一カ月。アルトの友であり
フォグの妹でもあるその“彼女”――キリエは、鮮血と混乱、
狂騒と悪意を引き連れて再び瑩国へと降り立った。
【煉禁術】で造られた偽りの人間たちが闇に蠢き、かくして陰謀と作為は飽和する。
匍都市民達を恐怖させる連続殺人事件が幕を開け、アルトとフォグはその渦中へ飛び込んでいく。
夜半に降る雨の中、二人を待ち受ける戦いの結末は果たして何をもたらすのか――?

突然運命の歯車の前に放り出されてしまったアルトとフォグ。
彼らが“それ”を認識する間も、“それ”を回したり止めたりする判断も与えぬまま、
彼らを飲み込もうとしてる。答えを問わない問いばかりを得て、彼らは振り回される。

大きな問いとなった最たる例の1つがキリエとの出会いだ。
これでアルトは友を得、フォグは妹を得、2人は“敵”を得た。

キリエは法王庁に飼われている自分を「楽しいから別にいい」と言っていたが、
そこには彼女の感情の刹那的な寂しさや絶望感を見た気がした。
彼女にはその生い立ち上、最初から何かを楽しむなんて感情はないんだよな・・・。

フォグにはアルトという世界が、レキュリィにはローレンから託された願いがある。
同じ人間ではない存在なのに、彼らは人間のように振る舞い、人として立ちはだかり、
私には無いものを沢山持っている・・・。キリエの、本来ならば怨嗟となる声は、
“兄”や“友”に助けを請う悲痛な叫び声にしか聞こえなかった。

事あるごとに、自分は“群体”であると強調していたのは、
裏を返せば、自分という“個”を見つめたくないからだった様に思える。
多くにして1つなるものである自分、なのに空っぽの自分。
認めたくない、逃げたい、忘れたい、壊したい。彼女を突き動かしているのはそれしかない。
世界を呪い、自分もその闇に埋もれようとする姿が本当に痛々しかった。

そんなキリエを想い、孤独ではない、私が居ると声を上げたのがアルトだ。
「私の代わりの私は沢山いるから、私が死んでも私も誰も傷付かない」という
“群体”としてのキリエの言を否定し、お前はお前だけなのだと気付かせた。

確かに“友”であったキリエはもう居ない。今は敵同士で、
目の前のキリエはアルトと心は通っていない・・・が、
過去に培った、アルトとキリエの中の“思い出”は嘘じゃないよな。
アルトは、それすら壊し、心の中で涙を流しながら、
自傷行為にも似た自己凌辱に走るキリエを見てられなかったんだ。

今回は姿を消したが、キリエの中に何かが生まれたのは間違いない。
“群体”ではない、“個”としてのキリエの答えはそう遠くない日に聞けそうだ。

それにしても、アルトの成長の度合いは目を見張るものがあるのぅ。
数瞬の間に、友を失い、再会し、否定し、決別し、殺し、愛した。
今まで更地に等しかったアルトの心の中に、幾度と無く大きな波が押し寄せてきた。
普通の人間でも、一度にこんな体験をしてしまったら真っ白になるだろうに、
アルトは1つ1つをかみ締めて、向き合って、フォグやイオに頼らず、
答えを渇望していない難題に自分で答えを出した。

一方、答えを出す前に限界量を超え、壊れてしまったのがトリエラだ・・・。
幼馴染との唐突な再会、裏切り、死亡。何が起こっているのか、
頭で整理する前に答えを聞く制限時間が来てしまった。
アルトやフォグには答えすら求めないのに、周囲の人間には容赦ねぇw

死亡フラグ立ちまくっていた中、それを回避した時はよっしゃーと喜んだのに、
トリエラがイパージの死体を弄りだした途端、「おい、待て・・・この流れは・・・」と
誰もが叫んだんじゃないかな。そしてフォグに向けた「この場には相応しくない台詞」。
これで「嗚呼・・・やりやがった・・・藤原やりやがった!w」と思ったよねw

流石黒い太陽だ、心が壊れた女性をまだ更に苛め尽くすとは。この変態作者!(褒め言葉
まぁ、あのまま壊れなくても、お国の秘密を沢山知ってしまった訳だから、
消される可能性もあるわな。それはそれで見たくない展開ではあるが、
何も敵方に、それも廃人のまま移籍させることはないじゃないか・・・w
次巻以降、絶対マッドサイエンティストとしてフォグらの前に立ちはだかるじゃん・・・w

この流れから察するに、イオも「危ない」よな。ってか、もう間違いないだろう。
イオも答えを聞かれる時が・・・ってか、彼女の答えや決意はもう出てますけどね!

2巻では、アルトやフォグに対するイオの想いが丁寧に描かれていた。
彼女はどんな場面においてもアルトらを愛し、護る存在だから、
敵さんとしてはこれほど見せしめになる相手もいない訳で・・・。

アルトから「大好きなイオ」って想いがひしひしと伝わってくるのも複雑だw
だってさ、それが可能になる「触れる、抱きしめる」という行為はよ・・・
「イオが死なないと出来ない」んだぜ?こんなのもう・・・頼むわホント・・・w
キリエの「一度会った人間の元には、自由にワープできる」ってのもフラグ臭くてかなわんw

レキュリィの存在は、今後のフォグに大きな影響を与えますね。
3番目の【ローレンの雛】、トロメア(客人に対する裏切り)の名を冠するホムンクルス。
ローレンの娘であり、妻であり、彼から瑩国を導く役目を託された女性。

人が手に入れた新しいエネルギーを発する煉獄と馴染み、御し、共生する。
その先導をホムンクルスが行う。言わば、世界と世界の架け橋となる。

でもフォグはそれを否定した。人ではない者が、人を導くなど傲慢だと。
これには、あくまで「人でありたい」と願うフォグの想いと、
そこに見え隠れするアルトへの想いがあった。
彼女を「人として想える」のはフォグとイオだけですからね。
イオなんか、文字通り命を賭して、1人の少女としてのアルトを想っている。
想う側が人を捨て、傲慢になってはアルトをも“化け物”にしてしまいかねない。

レキュリィもフォグもどちらも間違ってないわなぁ。フォグはああ言ったけど、
ユヴィオールとの会話から、レキュリィが本当にこの国を憂いている事が伝わってきた。
どちらも“人”とその世界を大切に想っている。それこそ人以上に。

しかし、“化け物”が人以上に人を想うなど、皮肉にしか聞こえんな・・・。
若しかして、ローレンは人の心や世界が、煉獄の出現によって、
荒廃していく事を予想していたのだろうか。1巻ではラスボスだと思っていたけど、
ローレンは真に人を思う存在だったのかもしれない。
または、錬術の研究の過程で、“何か”に至ったのかもしれない。
無論、【煉禁術】で命を造ったという行為は決して褒められるものではないが。

そして見えてきた、フォグらの想いをあざ笑うかの様に暗躍する者達。
イパーシを・・・彼の想いを蹂躙し、本当の“化け物”に変えた。
殺され、生き返させられた彼は、その出自も含め、この世界の典型的な犠牲者だな。

何かを訴えるでも無し、その行為で涙を流す者がいる事など考えず、
主義主張は無い、動機も無い。呼吸をするように命を弄ぶユヴィオール。
「そこに面白そうなものがあるから」と淡々とのたまう姿に怖気が走ったわ。
コイツはただひたすら不条理さを植えつける存在だ。

彼の上にいるであろう【煉禁術】で瑩国を破壊しようと目論むイーサもそうだ。
総じて、こいつらには精気が感じられない。もうどうにでもなれ、と言うのか、
一応の目的はあるが、大河の流れに身を任せようという感じがする。
そういうのが一番厄介だ。何を投げかけても、返ってくる“手応え”がないからな。
こちらの気持ちの整理が付かない。言い知れぬものが腹ん中に溜まるだけ。

その“大河”となるのが、沸々と深淵から湧き上がる国や王族、貴族、
何もかもが“平等”ではない世界自体への大勢による恨み辛みだろう。
今思えば、冒頭の瑩国首都・匍都のスラム街の描写や、
貴族の妻、武器屋の娘、売春婦。それぞれ今を生きている女性が、
夢半ばで無残に惨殺される描写はこれを引き立てる役目をしていたのかも。

それらが愚者どもの気まぐれで遂に決壊し、フォグらに襲い掛かろうとしている。
果たして、フォグはアルトとの小さな世界を守りきれるのか。

願わくば、今以上に黒い太陽がギラつく事が無いように・・・。
と言いつつ、どこかで大いに期待している自分がいる・・・クソッ!w
■用語解説
・愚者の石(グラクシール)
【煉獄】への扉を内包する様に作られた大理石に似た特殊合金。
これを核に撃鉄やボタン等を組み合わせたものが【鍵器】である。

・鍵器(けんき)
【煉獄】への扉を開く為の触媒とも言える道具。普通の煉術師はこれを用い、
過度に使用し、自身が傷つかないようにと、呼び込む毒気を調節し、それを繰るが、
アルトは体の中に扉を持っているので必要としない。

・煉禁術
無から有を作り出す神の御技。【煉獄】の毒気で作られたものは、こちらの理に合わない為、
本来、時が経つと霧散するが、それを強制的に現世に留めてしまう行いを指す。
つまりそれは【煉獄】の大気を金塊に変えたり、人間を造り出すことが可能という事。
これは経済など根幹を司る人間社会を大混乱させ、創造という神の領域を侵す禁忌である。

・ローレンの雛
稀代の煉術師ローレンがで創成したホムンクルスの総称。
それぞれコキュートスの名が与えられているようで、フォグはカイナ(1番目)に当たる。
カイナは“消失点”を意味し、フォグは「煉獄の毒気を吸収し、糧とする力」がある。
アンテノラは“群体”を意味し、キリエは「無数の個体で意識を共有」することが出来る。
トロメアは“供儀の血”を意味し、レキュリィは「毒気への不快感と耐性」を持っている。

・丁字教
世界に大きな影響力を行使する宗教で、丁国にある法王庁が管轄している。
丁字教は自然の理を破る煉術を認めておらず、丁国もそれに追随している。
よって瑩国は、国王を教主とし、煉術を容認する新丁字教を興し、世界一の煉術先進国となった。

・レキュリィの宴
瑩国に大きな影響力を与える総合商社。
その力には王族とて簡単には手を出せない。

■煉術一覧
○第一冠術式
???

○第二冠術式
???

○第三冠術式
・爛れ羊水(ベドル2)
金すらも侵す強力な溶解液を創成する。

・淡い蜂蜜(ロッテ4)
遅効性の神経毒を持つ微小の羽虫を創成し、操る煉術。

○第四冠術式
・凍み矢(アイン3)
氷の矢を創成し、意のままに操る。

・断裂鋼(オータム11)
回転する微細な刃を創成する。
無差別殺人を繰り返した狂気の煉術師レイド・オータムが開発。

・咬毒刀(ブレアド9)
神経毒を練りこんだ仮想鉄を創成する煉術。

・罪人の枷(コロン4)
創成した鉄球を高速回転させ発射、対象を破壊する。

・寒玉(メイヤ2)
触れた瞬間、対象へとへばりつく冷気を創成する。

○第五冠術式
・切り裂く無(ロゼ16)
武器の周囲に真空状態を作り出して殺傷力を高める。

・錬鉄(シャミィ2)
毒気から任意の武具を創成する錬術。
【鍵器】が主流となった今では廃れてしまっている。

○第六冠術式
・灼き水(シエナ6)
粘性の青い液体を創成する。液体は衝撃を受けると発火する性質を持つ。

○第七冠術式
・障壁(エレール2)
物理的防御力を持った不可視の壁を構築する。

○カテゴリー不明
・造物主の理(メイヤ1)
仮想生物を創成、武器に寄生させ敵を貪り尽くす煉術。

■銘あり【鍵器】一覧&その他
・イズス聖骸布
【煉禁術】で造られた【煉獄】の毒気を吸収、遮断する性質のローブ。【鍵器】ではない。
アルトが“外”を出歩く時にはかかせないが、これを着ると毒気を内包してしまう為、
アルトの体に変調をもたらすデメリットがある。

・グラフの数珠
悳国が開発した新型の【鍵器】。毒気を引き出す力は【愚者の石】を軽く上回る。

・アイリスの十六番
“魔剣の母”アイリス・キャリエルが【煉禁術】を用いて造った16番目の剣。
見た目に反し、ありえない重量と強度を誇る強力な武器で、フォグはこれを軽々と振るう。
アイリスの魔剣は18本あり、一番から五番は使用者の体や心を蝕みながら凄まじい力を発揮し、
六番から十番は一番から五番とは対照的に大きな力は無いが、使い手を傷つける事無く、
平等に力を分け与え、十一番以降は常人には扱えずゴミに見えるが、
使いこなせる者がいると驚異的に強い、という特徴がある。

・アイリスの四番
擬似ホムンクルスとなったイパージがユヴィオールから与えられた魔剣。
殺せば殺すほど使用者と一体化する破壊衝動を内包したグラディウス型の【鍵器】で、
剣を這う赤い膜によって、相手の認識を強制的にズラすという能力がある。

・アイリスの七番
レキュリィを護る老紳士の天堂騎士・カルブルックが持つ蛇腹剣型の魔剣。
カルブルックの意志に呼応し、切っ先を自在に曲げることが出来る。

・エルレの霧雨
凄腕の煉術師エルレ愛用の鉄扇状の【鍵器】。

・血飛沫アルエ
“蛇女”の愛称を持つ煉術師クリスティーナ愛用のレイピア状の【鍵器】。
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