詠み人知らず
2017年9月25日 けもフレショック(日本)
電撃文庫・5月の感想1
■田名部 宗司×椋本 夏夜『幕末魔法士 -Mage Revolution-』  ★★☆☆☆
幕末魔法士 -Mage Revolution-時は幕末。大坂適塾に学ぶ若き蘭学者にして魔法士の久世 伊織は、
塾長・緒方 洪庵の命でとある魔導書を翻訳するため出雲国松江藩に赴く。
そこで手渡されたのは、亡き父失脚の原因となった失われた技術、
魔法金属・ミスリル銀の錬成炉が記された書物だった・・・。
翻訳を開始した伊織の周囲の村で起こる神隠し、突然襲いかかる攘夷志士の凶刃、
魔法士・金森 鳶巣の暗殺。謎を追う伊織と赤眼の浪士・冬馬の前に、
やがてミスリル銀の錬成に隠された無窮の闇が明らかになっていく。
魔導の旋律が奏でる幕末ファンタジー登場!

Mage Revolution・・・メイジ・・・魔導師革命・・・明治維新・・・!w
と言うわけで、第16回電撃小説大賞で大賞を受賞した作品『幕末魔法士』に御座います。
刀から銃器、魔法(=科学)へと進化した現実世界。この物語は刀から銃器への過渡期に、
科学を通り越して本物の魔法が幕末へやって来たら・・・というお話です。
ただし、魔法と言っても所謂サンダーとかメテオ的なものではなく、
当時、日本に流入していた蘭学など西洋の文化の超延長線上のモノです。
万能の力(物語中、結核まだ不治の病なのもそれを表すものの1つか)があるわけではない。
でも、時代を動かす力にはなり得る。それがこの物語で語られる“魔法”です。

この世界では先史文明によって魔法が普通に存在します。史実の列強通りに、
特にイギリスはその技術が進んでいるようで。だとしたら薩英戦争とか
どうなるんだろうと思ったり。魔法を使ってドンパチするのかしら!?w

緒方 洪庵(有名な医師、蘭学者。彼が開いた適塾から大村 益次郎や福澤 諭吉、
橋本 左内ら人材が育った。あとがきで大村 益次郎を主人公にしたかったとあったので、
作者はこの辺の時代が好きなんだろうね)がまだ生きているので、薩英戦争まだだよね。
時代的には尊皇攘夷派がいよいよ決起し始める、動乱前夜な時代だ。

主人公・伊織が訪れた松江藩は、執政・神藤による改革により、
破綻寸前だった財政を立て直し、長州ら史実に登場する勢力と肩を並べる雄藩となった。
だが、そこには闇に蠢く悪鬼どもが居て、伊織はそれを暴くととなり、成敗する・・・。
女水戸黄門とでも言いましょうか。「天誅で御座る」な時代劇モノだった。

時代が時代だからなのか、最初は全体的に淡白な印象で時間をかけないと読めなかった。
戦闘シーンも、他のラノベのように曲線を描いて面白くなっていくと言うより、
かっくんかっくん上下に乱高下するような感じ。歴史や時代劇に興味が無い若者が、
時代劇を見ているような感覚とでも言うのかな。決して面白くない訳じゃなかったんだけど。
どうしても一度口の中で咀嚼しないと、飲み込めなかった。

時代背景に合う形での文章(文語風とまではいかない。勿論古文でもない。
早い話が、ちょっと難しい言葉遣いと、聴きなれない単語が多い)だったので、
スムーズに入ってこなかったんだろうか。それとも俺が単に阿呆だからなのかw
同時に、これによって「作者が本当に楽しんで、好きで書いている」とも思ったけどね。
特に冒頭なんかはこの時代の良さ(茶屋での会話等)を詰め込んでいる気がした。
これは大事だよな。やはり作者が物を書いているときの心情というのは文面に出る。
読者はそれを感じ取って、物語をより面白くさせるんだよな。

しかし神藤の屋敷で、伊織が依頼された魔導書の翻訳を途中でやめた理由を述べる辺り・・・
世界観が急速に構築され始める辺りから、面白さがググんと上がったなぁ。
同時に、俺の中でようやく主人公・伊織の“色”もここで決した。
こうなったらこっちのものだ。「掴んだ!」と思ったね。これは買っていける、と。
大きな波に乗れたらあとは悠々と滑るだけ!そこからは怒涛の面白さだったぜ。

伊織の相方・冬馬に施された祖父・シーボルト(この物語では大魔導師ですw)の呪。
これは【魔人】を封じる為のものだった。【魔人】とは外法によって産み出される
人外の魔力を持った人間(?)の事。外法とは「人を“共食い”させる事」であると言う。
そして、その高い魔力を持つ【魔人】の首は失われた魔法具・ミスリル銀を練成する
練成炉の動力源になるらしい。人が材料の神の御具・・・某錬金術師の賢者の石みたいだw

シーボルトは冬馬がそうなることを恐れたんだな。それは分かった。
だが、そもそも何故、冬馬が【魔人】となったのか。
神藤が魔法で召喚した異世界の怪物が覚醒した冬馬を見て、震え上がったのは何故か。
それに冬馬が【魔人】という事は、彼は人間を喰らっている事になるが・・・?
【魔人】はただ神になる為だけの道具ではなさそうだな。

松江藩の罪・ミスリル銀精製は、伊織の父親が志したものとは
真逆の黒い意思で作られていたものだった。だから伊織は許せなかった。
誘惑、暴言色々吹っかけてくる神藤に対して、一度も揺らぐこと無く、
彼の言葉を否定し、糾そうとした。あの年で確固たる自分の意思を持っている奴って稀有じゃね?
ただ「ミスリル銀練成=人の命」な訳で、父親、神藤どっちが正しいかと言うと・・・うーんw

さて、そんな伊織さんですが、皆さんは男性、女性どちらに見えますか?
うん?うん、そうだよなぁ?だけど読み進めても皆、伊織を男扱いしてるんだよ。
しつこいくらいに男扱いするから、最初はマジでそうなのかと思ったw
だけど冬馬によって胸元チラリ事件が起き、「やっぱりそうだよな!?」に変わった。
んが!相変わらず冬馬以外は男扱いする・・・これはどういう事なのか。

事はそう単純では無かったのだ。伊織曰く、彼女の背中に刻まれている紋は、
亡き父が改易にあった御家再興の為に「男に見える幻影の呪」を施したものだったのだ。
なるほど!だからか!そりゃ誰も疑わない訳だ!っつーか、疑う事すらしないわな!
ここでも魔法か!上手い!上手すぎる!くぅ!してやれたわ!w

これは【ランドル=エルの紋】と良い、施術者でなければ解けない魔法。
冬馬に施されている【魔人】封印の呪も同じ類の魔法で、
伊織の場合、施術者である父親が亡くなっているので誰にも解けないと言う。
冬馬は【魔人】の力によりそれを看破したに過ぎないのだ。つまり彼女は、
本人の意思とは無関係に、これから一生男として生きないといけない、と。

「伊織が女を知り、女に戻らぬように」という動機が不純で、クソ親父めと思いがちだが、
時代背景を考えると、悲しいかな男か、女かってのは非常に重要なんですよね。
彼女自身「これによって(男と勘違いされ)勉学に励むことが出来た」と言っている。
今だとピンとこない台詞かもしれないけど、幕末という時代を持ってきた
この物語だからこそ生きる台詞な気がする。

伊織が髪を伸ばしているのは「私は女でありたい」という小さな抵抗の表れでしょうか。
伊織はまだ“異性”を意識していないが、冬馬は違う。既にアクセル全開だ。
これは「男だと思ったら女だった!」の新しい形。この芽がどう育っていくのか楽しみ。

魔法、男装等など、全てが史実や時代背景と一体となり“自然”であった。
ここら辺は作者にGJだと拍手を贈りたい。が、唯一、“幕末”という要素のみ
途中(天魔党が一網打尽にされる辺り)までで料理が終わっているように感じた。
“幕末”は始まったばかりだ。欧州列強のうねりが本格的に到達するのはこれからである。
そして時代は激動を迎える。開国、尊皇攘夷、戦争、革命。
史実の攘夷は“武器”を持たなかった。でもこの物語では魔法と言う武器を持った。
史実で起こることに魔法が加わったら一体どうなるのか・・・。
いや、寧ろそれらを魔法で作者がどう味付けするのか、凄く楽しみだ。

最後に。絵はないものの、伊織があのツラで大好物の白玉を頬張る姿を想像したら
どうしてもニヤリングしてしまうんですが。嗚呼、口いっぱいに白玉を詰めてやりたいw
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テーマ:ライトノベル - ジャンル:本・雑誌

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